アーカイバルピグメントプリントと保存額装

アーカイバルピグメントプリントとは、長期保存に適した用紙と高品質なインクを使用して制作されるインクジェットプリントのことで、適切な保存環境下であれば、100年以上の耐久性が期待されている。

それは、OBA1を含まない天然由来の材料 (コットン、アルファセルロース2、麻、(こうぞ)、竹など) をベースにした耐久性の高い無酸性3のデジタルファインアート紙4に、保存性の高い水性顔料インクを使って、ハイエンドなデジタルプリンタで出力するものである。

実体のないデジタルデータのイメージが、インクに変換されプリントされることで、アナログイメージとなる瞬間は、いつもちょっとした高揚感を覚える。
また、それには物質としての確かな厚み、重さ、質感があり、ペーパーのテクスチャと相まって立体感や奥行き感を持ち、イメージに新たなリアルさと存在感を与えてくれる。

しかし、こうして耐久性の高い素材で制作されたプリントであっても、保存環境が悪ければ、長期間その美しさを保つことは叶わない。プリントにとって悪影響となる要因は、光 (特に紫外線)、高温高湿、空気中の有害物質 (酸、オゾン、硫化化合物など)、酸性物質を含む接触素材、また素手でプリントに触ることなどを挙げることができる。

対策としては、直射日光や蛍光灯などの紫外線を避け、保存用スリーブを使用し、温度15~20℃、湿度30~50%の安定した環境で保管することが望ましい。なお、これらの点を踏まえると、展示を行う場合でも、プリントへのダメージを最小限にするには、額装という選択肢を選ぶことになるだろう。

額装すれば、普通アクリル5でも90%程度の紫外線をカットすることが可能で、温度や湿度の変化を最小限にし、かつ空気中の有害物質からプリントを守ることができる。また、プリントとアクリルが直接触れることで生じる癒着や、雑菌による汚染を防ぐため、アクリルとプリントの間にはオーバーマットを使用する。なお、このオーバーマットを制作するマットボードの素材も良質な物を使う必要があり、多くの場合、ミュージアムボード6やピュアマット7が使用される。

また、オーバーマットと同サイズのマットボードをリネンのヒンジで繋ぎ、プリントを挟んでコーナー止めするブックマットという形式がある。この形式で保存しておけば、額装の際にそのままフレームに差し込むことができ、手軽に作品を扱うことが可能になり、物理的損傷の回避も期待できる。

さらに、プリントの劣化を防ぐためには、額装に用いる素材すべてについて、気を配る必要がある。裏板をはじめ、コーナー止め、ヒンジ、糊、テープ、保護紙、バックボード、調湿紙などを使用する場合も、写真活性度試験 (PAT)8に合格した安全なものを使用することが求められる。こうした長期保存や、劣化防止を重視した額装方法を保存額装という。

  1. Optical Brightening Agentの略。ペーパーをより白く見せる目的で使用される蛍光増白剤のこと。分子構造が不安定で、経年劣化によりプリントが黄色みをおびてしまうことがある。 ↩︎
  2. 木材や植物から酸性化の原因となるリグニンを取り除いた植物繊維。リグニンと紫外線が化学反応を起こすと酸性化する。 ↩︎
  3. 無酸性が重要視されるのは、酸性の紙は20~25年経過すると茶褐色に退色するため。 ↩︎
  4. 美術用途で使用されてきた版画紙や水彩画紙といった画材用紙にインク受容層を設け、インクジェットプリンタに対応させたもの。 ↩︎
  5. UVカットアクリルを用いれば100%近い紫外線をカットできるが非常に高価。 ↩︎
  6. 綿の繊維で作られたボード ↩︎
  7. 国産の綿繊維とパルプ混のボード ↩︎
  8. Photographic Activity Testの略。写真や美術品などの保存に使われる紙や接着剤などの材料が、写真に悪影響を与えないかを調べる試験。 ↩︎